交換殺人には向かない夜(東川 篤哉)

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記事日付: 2016/8/20

最近読書が趣味になりつつあるので、
読書感想文?の記事カテゴリを作ってみた。

東川 篤哉の「交換殺人には向かない夜」を読んだので、
その内容についての考察をまとめてみた。

「交換殺人には向かない夜」

本書は、交換殺人をテーマにした東川 篤哉のミステリー小説である。
最後から2番目の章で話全体の詳細な「種明かし」が行われ
数々の伏線が見事に回収されて決着がつけられる。

一方、最後の章(エピローグ)では、前章の「種明かし」において回収されなかった
伏線と推理があえて蒸し返されるが、それに対する十分な説明はなく物語が終わる。
「種明かし」が具体的かつ親切であった本書において、
説明なく伏線が蒸し返される「エピローグ」は「読者への挑戦状」のようなものではないか。

以下に、エピローグの内容についての考察だけをまとめる。
それ以外についての書評はたくさんあるため、ここでは書かない。

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----------以下、ネタバレ----------

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「エピローグ」

「エピローグ」において示される課題について整理する。

①棄却された推理

彼女の語る野望を聞いて、流平はあらためてひとつ確認しておきたいことを思い出した。
-中略-
「ええ、見させていただきました。結局、あの映画にはなんのトリックもなかったんですね」

「エピローグ」の一番最後において、流平とさくらが彩子に問う場面である。
ここで蒸し返される推理は、最後から3番目の章「真実にいたる小道」で示されたもので、結局種明かしでは無視されている。
わざわざ一番最後に蒸し返したからには、何かしら著者の意図があるはずだ。

②英雄との密会

「善通寺咲子――つまり先輩が――若い男と浮気しているという話を、遠山真里子が主張しているんです。これって単なる誤解ですよね」
-中略-
「いや、それはいいです。それで、二人はラブホテルでなにを?」
「だから、交換殺人の話だってば」

遠山真理子が彩子の浮気を疑う内容について、志木が蒸し返す場面である。
ここで彩子は権藤英雄とラブホテル内で「交換殺人」についての秘密の話をしたと説明している。

③繋がらない携帯電話

「いまとなっては小さなことですが、ひとつ奥様に聞いておきたいことがあったのです。
携帯電話のことなんですがね。あの事件の夜、わたしは奥様の携帯に三回にわたって電話したのですが、
いずれも繋がりませんでした。あれはなぜだったのですか」

携帯電話が繋がらなかったことについて、鵜飼が蒸し返す場面である。
ここで彩子は映画を見るときの「長年の習慣」であったと説明する。

「では、映画が終わってからも電源を入れ直さなかったのですね」
「ええ。わたしが再び携帯の電源を入れたのは、朝になって別荘を出ていくときでした」
「なるほど。そういうことでしたか」鵜飼は胸のつかえが取れたとばかりに深く頷いた。

この話題は以上のように締められるが、朝まで連絡がつかなかったことの説明になっていない。

「映画のトリック」はあったのか

「エピローグ」において蒸し返される流平の「推理」は、映画にトリックが仕掛けられていることに立脚している。
そのトリックはあったのか。

「泥のついた死体」の章において、流平たちが二回目に映画を再生するとき、以下の記述がある。

彩子は飄々とした様子で広間を出ていった。やがて戻ってきた彼女の手には、『映画監督サイコ』とラベルの貼られたビデオテープ。
流平はひったくるようにそれを受け取ると、さっそくビデオデッキに挿入する。
テープは巻き戻してあったために、『映画監督サイコ』はファーストシーンから再生がはじまった。

ここで、わざわざテープが巻き戻されていたことが明示されている。
一方、流平たちが一回目に映画を再生し終わったとき、以下のとおりテープの巻き戻しにかかわる記述はない。

彩子はビデオテープをデッキから取り出しながら、深夜の宴を明るく締めくくった。
「よし、それじゃあ、今夜はこれでお開きとするか」

これは、テープのすり替えがあった事、すなわち、トリックが実在したことを示している。

権藤源次郎殺害の動機

本作において、権藤源次郎を殺害する直接的な動機があるのは善通寺春彦を除けば権藤英雄のみである。
権堂英雄の動機として、作中では会社経営方針の相違と遺産相続が仄めかされている。

本作は交換殺人がテーマであるから、彩子が権藤源次郎を殺害する動機は、権藤英雄との交換殺人契約であるとするのが自然である。
そうすると、彩子が権堂英雄に殺害を依頼する可能性のある対象は、作中において善通寺春彦しかいない。

善通寺春彦殺害の動機

ここで、彩子と善通寺春彦の関係を時系列でまとめる。

8年以上前: 
 善通寺春彦のプロポーズを断る。
3年前: 
 善通寺幸子の死亡を知る。
2年前くらい: 
 警察を退職。幸子の保険金2億5千万を受け取った善通寺春彦に再接近。
1年前: 
 善通寺春彦と結婚。
2ヶ月前: 
 権藤英雄に接触され、善通寺春彦による権藤一雄殺害の証拠探しを開始。
事件後おそらく半年以内: 
 善通寺家の諸々を精算して「縁のあった監督」の元へ。

以上を見るに、彩子の善通寺春彦に対する愛情は疑わしい。
序盤で朱美が彩子に、春彦と結婚した理由を尋ねる時は以下のとおりであり、まともな理由は示されていない。単に2億5000万円のおこぼれが欲しかったのかもしれない。

善通寺春彦の画家としての評判は散々なものである。朱美は春彦のことが哀れに思えると同時に、いささか腑に落ちない気分を抱いた。
「あの、失礼ですが、咲子さんは春彦氏にたいした才能がないと知りながら、なぜ一緒になったんですか」
「あら、ずいぶんと率直な質問ね、朱美さん。でも、その答えはありふれたものよ。わたしと彼が一緒になったのは
彼の絵のモデルになったことがきっかけなの。絵描きとモデルが恋に落ちて、そのままゴールイン。よくある話でしょ」

ところで、「見知らぬ乗客」章において、鵜飼により映画「見知らぬ乗客」について以下の解説がなされている。

「で、どういう映画なのよ? その『見知らぬ乗客』って」
「ひと言でいうと交換殺人の映画だ」鵜飼は浜村淳のように映画のあらすじを語りはじめた。
「物語は列車に乗っている主人公に謎めいた男が接近し、交換殺人を持ちかける場面からはじまる。主人公にはあまり感じのよくない妻と、美しい愛人がいる。
主人公は愛人と一緒になりたがっているが、妻の存在がそれを邪魔している。一方、謎の男は支配者的な父親の存在が疎ましく、これを殺して遺産を得たいと考えている。
要する要するに、二人の男には、それぞれ殺したい人間がいるわけだ。判るね」

これが、本小説の枠組みを暗示しているのであるとすれば、「主人公」を彩子、「謎めいた男」を権堂英雄と置き換えることで話が整合する。
「感じのよくない妻」は善通寺春彦、「支配者的な父親」は権藤源次郎でよい。
「美しい愛人」は、作中での言及範囲では「縁のあった監督」などが該当するかもしれない。

彩子と権藤英雄の密約

「解決-引き裂かれた夜の果てに」において、権藤英雄は彩子と接触した際に、善通寺春彦による権藤一雄殺害を告発するための証拠探しを依頼したことが示される。
この部分は、会話の流れの上では彩子による告白であるが、会話文による説明ではないことから、小説上は偽りのない過去の事実の描写であると考えてよいと思われる。
この依頼は、以下のとおり「喫茶店」で行われたことになっている。

興味を惹かれた咲子は、男と一緒に店を出た。 二人は喫茶店の片隅で向かい合った。男はあらためて「権藤英雄」と名乗った。英雄は咲子にこう切り出した。

一方で、本記事の冒頭で述べたように、「エピローグ」においては、「喫茶店」での会話のあと、「ラブホテル」に移動して「交換殺人」の話が行われた事が示されている。
「解決-引き裂かれた夜の果てに」で示されたのは「喫茶店」における会話だけで、「ラブホテル」における会話は示されていない。
「ラブホテル」において成された「交換殺人」の話は、「3年前の交換殺人」だけではなく、「善通寺春彦、権藤源次郎の殺害」を含んでいたと考えうる。
この場において、証拠探しの相談は新たなる交換殺人契約の相談に膨らんだのである。

権藤源次郎の殺害計画

「真実にいたる小道」に示されたとおりである。

① 「映画のトリック」により、殺害時刻を1:50頃とし、そのときのアリバイを作る。
② 2:00時以降に権藤源次郎を殺害する

このとき、いずれのタイミングにおいても鵜飼からの連絡は絶つ必要があった。
本来の計画では、善通寺春彦は権藤一雄の遺体を掘り返すはずであり、鵜飼がそれを発見する可能性があった。
「ひまわり荘」と善通寺邸の距離が近いため、遺体発見のような異常事態に対応しないことは不自然だからである。

実際に権藤源次郎を殺害したのは誰か

権藤源次郎殺害の凶器は泥付きスコップであることから、
「解決-引き裂かれた夜の果てに」で示されたとおり、善通寺春彦が犯人である。

善通寺春彦が権藤源次郎殺害を殺害した時刻は1:30~2:00と考えられる。
※ここでは特に示さないが、作中に示される各時間を拾い集め、移動時間等を計算すると丁度そのくらいになる。
したがって、彩子は権藤源次郎を殺害できない。

結局どういうことだったのか

実際の事件の流れは、「解決-引き裂かれた夜の果てに」で示されたとおりであったと考えられる。
しかし、実はその裏で彩子と権藤英雄による交換殺人計画が進行していた。

その計画は、遠山真理子が小便小僧を動かしたことによる善通寺春彦の発狂により勝手に目的が達成されたため、
彩子と権藤英雄が自ら手を下す必要が無くなったのである。
本書のタイトル「交換殺人には向かない夜」とは、このことを意味しているのであろう。

さいごに

この深読みによると、彩子はとんでもない奴だということになる。
彩子は「映画監督サイコ」について以下のように述べている。

「そのとおり。『水樹彩子』という名前は映画の中に登場する主人公の名前だ。と同時に、
その主人公を演じた女優の名前であり、実際にその映画を監督した人間の名前でもある。つまり、わたしのことだ」

本書で計画された交換殺人において、まさに彩子はこの立場だった。しかし、その計画は期せずして破綻したのである。
だが、彩子は去り際に以下のように述べている。

「そういうことだな。だが、あくまでもわたしの究極目標は映画監督水樹彩子だ。女優水樹彩子の復活は、その序章に過ぎない。ま、乞うご期待ってところだな」

以上

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Likipon

埼玉在住の一応エンジニア。最近はシステムエンジニア気味で回路が本業でなくなってしまった。

うなりくんのファン。

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